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EXPERIMENT 02

WONKXTHE LOVE EXPERIMENT

BINARY

WONK

NYで音楽シーンの最先端をいくThe Love Experiment
知る人ぞ知る実力派バンドのキャリアと音楽への想いを探る

11月8日に、日本のエクスペリメンタル・ソウル・バンド“WONK”とニューヨークのフューチャー・ソウル・バンド“The Love Experiment”の共作『BINARY』がリリースされる。海を越えて1つの作品をそれぞれの拠点からインターネットを介して作り上げるという試みを経て何を感じ、このプロジェクトが先の音楽シーンにどう影響していくのか。より深くその内面を追っていくスペシャルコンテンツの第二弾はThe Love Experimentのキャリアを振り返りながら、一問一答のメールインタビューで『BINARY』制作や音楽作りそのものへの想いを探った。

鋭い感性が光る実力派が揃う期待のフューチャー・ソウル・バンドThe Love Experiment

米ボストンで結成され2010年に活動を開始、現在はニューヨークを拠点に活躍するフューチャー・ソウル・バンド、The Love Experiment(ラヴ・エクスペリメント)。発起人であるCharles Burchellを中心にバークリー音楽大学やニューイングランド音楽院、ハーバード大学でジャズなどを学んでいた若きミュージシャンたちが集い結成された彼らは、まさに知る人ぞ知る実力派バンドとしてその名を少しずつ、しかし確実に世界へ向けて広めつつある。

彼らのキャリアをたどっていくと、結成当初はホーン隊なども含む12人に及ぶ大所帯で、2010年3月にはデモEP『The DemO』、2012年4月にはアルバムも自主リリースしたがいずれもほとんど世に広まることはなかったよう。彼らが一躍注目を浴びるようになったのは2012年、Talib Kweliと女性シンガーのResが組んだIdle Warshipのツアーで前座を務めたことで脚光を浴びてから、活動拠点もNYに移転。それから4年の時を経て現在の6名を中心としたプロジェクトへと進化し、2016年にリリースした『The Love Experiment』はここ日本でもリリースされ、耳の早い音楽ファンたちの間で瞬く間に広まっていった。

ちょうどその少し前から、The InternetなどのOdd Future勢やHiatus Kaiyoteなどのソウル、ヒップホップ、ジャズ、エレクトロニカなど幅広い音楽をバックボーンに感じさせる「フューチャー・ソウル」と評されるような音楽性を持つアーティストたちが注目され始めたその土壌において、これから先の音楽シーンには欠かせない若手の注目株としてThe Love Experimentの名も認知されている。そして、The Love Experimentの大きな特徴は、メンバー個々が何かしらのプロフェッショナルとしてソロ活動も行うスキルの高さに音楽的嗜好の多様性など様々な色を持ったメンバーたちが集っていることだろう。ここではそれぞれのメンバーにフォーカスしてみよう。

Charles Burchell

Charles Burchell (Drs)
ニューオーリンズ出身でバンドのリーダー。ニューイングランド音楽院で音楽を学び、ハーバード教育学大学院を卒業しており、ドラムの他にも多くの楽器を弾きこなすマルチアーティスト。Christian ScottやJason Moranと共演歴もあり、黒田卓也やBIGYUKIなどとも交流がある。日本文化にも興味を持っておりBLVK SAMuRaI(ブラック・サムライ)という名義でプロデュース活動も行うなど幅広く活躍をしている。

Kim Mayo

Kim Mayo (Vo)
イリノイ州シカゴ出身。10年以上シンガーとして活動していて、Jason MoranやLuis Bonillaといった様々なアーティストとも共演暦を持つ。「素晴らしいソングライターであると同時にとてもユニークなヴォーカリストでもあり、一番古くからの共演者でもある」とCharlesは彼女を評する。ニューイングランド音楽院で一緒にジャズを勉強していた当時、Charlesがバンド用に作っていた曲の作詞を彼女に依頼。それがThe Love Experimentの最初の曲となった。また、Billie HolidayやSufjan Stevensの大ファンで、James BlakeやIman Omari、KING、SZAといったシーンの最前線を走るアーティスト達にも造詣が深く、メンバー達に新たな音楽を紹介することもしばしば。Moonheartというフォーク/ポップスデュオとLimbというエレクトロニカデュオの2つの素晴らしいユニットでも活動している。

Andrew Burglass

Andrew Burglass (Gt)
ルイジアナ州マンデヴィル(ニューオーリンズから45分くらいの地区)の出身。リーダーのCharlesとは高校の頃からの友人であり、「お気に入りのギタリストで最も多才なミュージシャンの一人」と評し、Charlesのバンドほぼ全てでギターを弾いてきたという盟友。音楽的バックボーンはJimi HendrixやTorhino Horta、Q-Tip、Charlie Hunter、D’Angelo、Baden Powell、John Coltrane、A Tribe Called Quest、Madlibなど。今ではニューヨークでトップクラスのギタリストでもあり、自身でギタートリオも結成し活動している。

Jessi Lee

Jessi Lee (Sax)
イリノイ州シカゴ出身。2009年に彼女が演奏するサックスに惚れ込んだチャールズが加入の話を持ちかけ2010年、The Love Experimentの結成に合わせ加入。グループが縮小した時には、シンセサイザーやコーラスまで担当してグループを支える勤勉家。ソロでも『Perception Filter』というジャズアルバムをリリース、彼女が全面プロデュースを手がけるヴォーカリストNandi Kとのエレクトロニカプロジェクト「NandiJay」も指揮する。音楽的にはCharlie Parkerや80年代のヒット曲、Michael Jackson、Teddy Pendergrass、Radioheadからの影響を受けている

Parker McAllister

Parker McAllister (Ba)
ニューヨークのブルックリン、ベッドフォード=スタイベサンド(The Norotious B.I.G.が育ったことでも有名)の出身。Charlesとはニューイングランド音楽院で出会い、「キャンパスで数少ない黒人同士だったということもあってすぐに打ち解けた」とのこと。14歳の頃からプロとして活動を開始。これまでSweet Honey in the RockやHypnotic Brass Ensemble、黒田卓也といったアーティスト達と一緒に世界中でツアーをまわり、音楽学校でのゲスト講師も務める実力派にして、TLEにおいては最年少ながら精神的な支柱でもある。PrinceやStevie Wonder、Marcus Miller、Earth Wind & Fire、Busta Rhymesなどから影響を受けている。

Devon Dixon Jr.

Devon Dixon Jr. (Key)
ニューヨークのクイーンズ出身。パーチェスカレッジ音楽院のジャズ専攻科を卒業し、数多くの教会でミュージックディレクターをやりながら、テレビライセンス代理店の作曲家もこなすキーボーディスト/オルガン奏者。シンプルなコンピュータープログラムでどんなシンセでも使いこなす様からメンバーからは「マッドサイエンティスト」と呼ばれる。Son Lux、Gungor、 Herbie Hancock、Doobie Powellなどを好んで聴いている。CommonやChante Cannなどとも共演暦があり、2017年のBilalの来日公演でもキーボーディストとして来日した。

こうして各メンバーが独自の立ち位置を音楽シーンの中で確立しているいわばオールスターとも言えるバンドである彼ら。それだけに多忙を極めるメンバーたちは活動拠点も様々で、なかなかマイペースな制作活動が続いているが、今回日本のWONKとともに共作『BINARY』を作り上げた。そんな彼らに今回のプロジェクトについて一問一答形式でのメールインタビューを敢行。後進のアーティスト、ミュージシャンたちが音楽活動を続けていく上で考えるべき秘訣やWONKとの制作で感じた魅力などをたっぷり語ってもらった。

ソウルクエリアンズのように次は僕たちがフューチャー・ソウルのムーヴメントを起こしたい

今回のプロジェクトはSWEET SOUL RECORDSの理念として「SPREAD REAL MUSIC」というものがあるのですが、その理念のもとWONKという若手の実力派バンドとThe Love Experimentというニューヨークでまさにブレイクしようとしているバンドにコラボレーションをしていただきました。最初にこの話を聞いた時はどう思われました?

Charles Burchell:本当にクールなアイデアだし野心的なプロジェクトだと思ったよ。
たくさんのミュージシャンが今の音楽シーンで自分たちの進むべき道を見つけるのに苦労していると思うんだ。誰もが限られたチャンスをめぐって競争している中で、似たような音楽性を持ったアーティスト同士が協力してコラボするのは珍しいことかもね。でも、過去に起こった偉大な音楽ムーヴメントは、同じような志向を持ったアーティストが集まって一緒にたくさんの音楽を作っていくうちに1つのサウンドを作り上げたことから始まっているんだ。ソウルクエリアンズがそうであったように、今度は僕達がフューチャー・ソウルのムーヴメントを起こしていきたいと思っているよ。
「REAL MUSIC」に関して言うと、何が音楽を“リアル”にするかというとその背景にある魂や人間性で、リスナーも結局はそうしたものを求めていて、個人の感情にいかにコネクトできるかが鍵だと考えているよ。だから今回のアルバムを通して世界中のできるだけたくさんの人達と繋がりたいと思ってるんだ。

WONKの音楽を初めて聴いた時の感想を教えてください。

Hiatus KayoteやThe Internet、Robert Glasper Experimentのようなグループを想起させたけど、間違いなくWONKは独自のヴァイブスを持っているね。僕の解釈では、ネオ・ソウルは90年代後半から2000年代初頭のムーヴメントのことで、Hiatus Kayote、KING、The Internetといったアーティストがやろうとしていることは、Erykah BaduやJ Dilla、D’Angeloといったアーティストからの影響を受けながらも次のレベルに進むことなんだ。そういう意味でもWONKのプロダクションやエレクトロと生音のミックス具合も最高だし、前衛的なサウンドでまさにフューチャー・ソウルって感じだよ。

WONKのメンバーは今回の共作を経てThe Love Experimentのコードワークの巧みさやKim Mayoの表現力の高さが他のアーティストに比べても圧倒的だと感じたと語っていました。The Love Experimentから見てWONKの魅力はどういったところなのでしょう?

メロディーが特に印象的だね。ハーモニーのつけ方も素晴らしいんだけど、複雑になりすぎないようにキャッチーで歌いやすくしている。他にも彼らの音楽の実験的な部分にはとても惹かれていて、“Real Love”のミュージックビデオを観たんだけど、ラップが終わってすぐにドラムソロに移る展開は最高だね。ただのプロデューサーものではなくてバンドだからこそ成せる技で、例えば曲中で激しいサックスソロとかテンポチェンジが欲しい時、バンドでワイルドにプレイするだけでいいからね。彼らはジャズからの影響をとても受けていると思うけど、ただ単にヒップホップのビートでジャズを作っているってことではなくて、音楽そのものをクリエイトしていく姿にジャズを感じるね。彼らの音楽がどんどん進化していく様子を見ていてとても触発されるよ。

WONK – Real Love feat. JUA & Shun Ishiwaka

ボーナストラックに収録されているのは、お互いの楽曲を互いにリミックスしたものですが、Summer Jawn (WONK Remix)の感想はいかがでしたか?また、The World Looks So Brand New (The Love Experiment Remix)はどういったイメージでリミックスされたんでしょう?

最初に聴いた時は原曲とは全く別の曲だと思ったよ!原曲のヴァイブスを完全に変えて予想もしなかった形にしたのはとてもクールだね。
僕らのリミックスに関して言うと、最初はFYZiKS (Jessi Leeのプロデューサー名義)とダンス系トラックを作ろうとしたんだけど、うまくハマらなくて全く別の方向性で作ることにしたんだ。Jessiの出身でもあるシカゴ発祥のフットワークミュージックにインスパイヤされたスタイルなんだ。僕らにとっても今までになかった音楽性だったけど、今回のアルバムにはいろんなタイプのサウンドを詰め込みたかったからチャレンジしてみたんだ。

音楽や文化は世界共通のものだってことが作品を通して伝わればと思う

海を隔ててのコラボレーションでしたが、それ故に難しかった点などがあれば教えてください。

言葉の壁もあるうえに、よく知らない人達と一緒に音楽を作るっていうのは普通に考えて難しいことだよね。実際にWONKとは一度も会ったことがない(Devonに関してはBilalの来日公演の際に対面を果たしている)という事実も考えると、よく1つの作品としてまとめることができたなっていうのが正直な感想だね。いろいろと大変な局面もあったけど、なんとか乗り越えられたのは、遠隔での制作で全員が一つの部屋に集まるチャンスもない中、音楽を通して彼らがどんな人達でどんなことを表現しようとしているかを感じ取ることに集中したからかな。僕にとって音楽は個人の経験や体験を具現化しているものだから。今度はみんな一つの部屋に集まって何か一緒にクリエイトしてみたいよ。

The Love Experiment – Everywhere

今回はThe Love Experimentの提案でSpliceというサービスを使って制作を進められたそうですが、このサービスは日本ではまだほとんど知名度がありません。こういった新しいサービスの情報はどのようにして仕入れているのでしょうか?また、最近注目している音楽関連の新しいサービスなどはありますか?

Spliceは秀逸なサービスだよ。僕の大学の同窓生がSpliceの立ち上げのメンバーの1人で、β版プログラムをテストしたいからって送ってきてくれたのがきっかけだね。トラックメイキングを教えるようになったり関わるプロジェクトが増えてきたりした時期にSpliceの有り難みがわかったよ。特に他のプロデューサーやアーティストとコラボしようとしている最近のミュージシャンにとっては本当に貴重なサービスだからぜひ利用して欲しいね。
音楽関連の情報についてはRed Bull AcademyやRed Bull Studios、Red Bull Radioを注目してチェックしているね。彼らは音楽カルチャーにとっていろいろと素晴らしい取り組みをしていると思うよ。あとこれはまだシークレットなんだけど、実は今、The Love Experimentのメンバーの何人かはアプリを開発中で、このアプリでもしかするとミュージシャンの働き方を変えられるかもしれないんだ。今はまだ詳しいことは言えないんだけど情報待っててくれよ。

今作の楽曲を制作する上で特に意識したことや、表現したかったイメージなどはありますか?

僕発信でもなくバンド発信でもないThe Love Experimentとしてのプロジェクトは今回が初めてで、今まで考えつかなかった素晴らしいアイデアだよ。お互いにリスペクトし合う2つのグループが、実際に会うことなく、世界の2つの異なる都市を繋いで作品をクリエイトするんだからね。まるでコインの表裏みたいに、僕たちがニューヨークでしているように日本でもフューチャー・ソウル(これからの音楽)を広げていく人達がいるということ、音楽や文化は世界共通のものだってことが作品を通しても伝わればと思うよ。

今作の中で特に気に入っている曲があれば教えてください。

本当にたくさんあるけど、強いて挙げるとすれば“Fragile Ego”、“Montreal”、“Beat-Lude Pt. 3”、“Cold World”、“Crazy Love”、“Lotus”が個人的にはお気に入りだね。

その人にしか作れない音楽を人は求めている

The Love Experimentの名前は日本でも少しずつ浸透してきています。日本を含め、海外ツアーなど世界進出をしてく予定や目標などはありますか?

来年2018年はヨーロッパやアメリカでのツアーも計画中だよ。それに近いうちに日本で初ツアーをしたいっていうのは本当に願ってるんだ。ゆくゆくは夏フェスとかにも呼ばれるようになりたいな。これからももっと日本のアーティストとコラボしたり日本のアーティストをプロデュースしたりして、文化を跨いだ交流をしていきたいと思っているよ。

The Love Experimentの皆さんが最近注目しているアーティストや好きなアーティストを教えてください。

Amber Mark(キーボーディストのDevonが一緒にツアーをしている)やDaniel Caesar、Chance the Rapper、NxWorries、Braxton Cook、Moonchild、Nick Hakim、SZAなんかがお気に入りだね。このうち何人かは交流もあるし、そうでない人たちも是非会ってみたいアーティストだよ。

音楽を作る上で意識した方がいい必要な能力や心構えなどがあれば教えてください。

何よりも自分の中にあるものを大切にするってことだね。何が流行っていてどんなものがウケるかなんて考えなくていいんだ。自分自身がアガる音楽を追求するのみだよ。そういった音楽こそ人は求めているんだ。その人にしか作れない音楽をね。
これからアーティストとしてやっていく人達はたくさんのことを勉強しなければいけないけど、それと同時に常に音楽を作ってそれを世に出し続けていくっていうのが何より大切なことだと思うな。完璧なものなんて一生できないんだから。作品をリリースするのに正しいタイミングなんてないんだ。行き詰まったとしても、なんとかプロジェクトを形にしてそこに自分の名前をクレジットするんだ。しつこいようだけど、君の音楽が完璧になることは一生ない。でもそうやって自分自身に課しながら作品をリリースし続けて、その中で徐々にレベルアップしていけば、いつかインパクトを残すチャンスがやってくるんだ。

EXPERIMENT