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いよいよ明日8/17にデビュー作リリースを控えたThe Love Experiment (ラヴ・エクスペリメント))。彼らにライターの林剛氏がインタビューを敢行。最先端の音楽都市ニューヨークでも話題を集めるフューチャーソウルバンドである彼らのルーツや志向する音楽、そしてデビュー作にしてセルフタイトルとなる『The Love Experiment』について、リーダーのチャールズ・バーチェルにたっぷりと語ってもらった。ぜひご一読いただきたい。

 

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The Love Experiment チャールズ・バーチェルインタビュー

– チャールズ・バーチェル (ドラム/プロダクション) –

CHARLES

Q:The Love Experimentは現在はNYを拠点に活動していますが、もともとバークリー音楽大学やハーバード大学の出身者でボストンで結成されたと聞いています。その経緯を改めて教えてください。

A:僕たちはニューイングランド音楽院、バークリー音楽大学、ハーバード大学の卒業生なんだけど、メンバーのほとんどは2009年頃にマサチューセッツ州のボストンの学校で出会ってるんだ。当時Flying LotusやJ Dillaにとても影響を受けていて、彼らのようなプロダクションをライヴで実演できるグループを結成したいと思っていたんだ。その頃、2006年に自分が結成したバンドを脱退したこともあって、新しい音楽性を模索していたんだ。毎週ジャムセッションに参加してバンドの構想を練る傍ら、ようやくThe Love Experimentのオリジナルメンバー12人に出会うことができたんだ。その後、2010年にハーバード大学で行ったパフォーワンスをきっかけに正式にバンドとしてスタートして今に至るよ。

 

Q:アルバムには9人のメンバーがクレジットされていますが、コア・メンバーは何人なのでしょう?

A:バンドメンバーはこの数年間でたくさん入れ替わっていて、このアルバムを作るのにも3年以上の歳月を費やしたよ。レコーディング自体にはもっとたくさんの人が関わっているけど、このアルバムのコア・メンバーとしては自分を入れて以下の8人だよ。

 

 – キム・メイヨー(ヴォーカル) –

KIM

イリノイ州シカゴ出身で10年以上シンガーとして活動していて、Jason MoranやLuis Bonillaといった様々なアーティストとも共演したことがあるよ。素晴らしいソングライターであると同時にとてもユニークなヴォーカリストでもあり、一番古くからの共演者でもあるね。彼女とはニューイングランド音楽院で出会って一緒にジャズを勉強していたんだけど、僕が当時組んでいたバンド用に作っていた曲にリリックを付けてくれないかと頼んだことがあって、それがThe Love Experimentの最初の曲になったんだ。何年間にも渡って彼女は僕の聴く音楽の幅を広げてくれた存在で、彼女と一緒に音楽を作ることができて本当に嬉しいよ。彼女はBillie HolidayやSufjan Stevensの大ファンなんだけど、いつも素晴らしい音楽を教えてくれるんだ。James BlakeやIman Omari、KING、SZAといったアーティストを紹介してくれたのも彼女さ。また、今年の前半にファーストアルバムをリリースしたばかりのMoonheartというフォーク/ポップスデュオとLimbというエレクトロニックデュオの2つの素晴らしいグループでも活動しているよ。僕は彼女が2014年にリリースした“Love’s Hum”というアルバムの大ファンなんだ。

 

 – アンドリュー・バーグラス(ギター) –

ANDREW

ルイジアナ州マンデヴィル(ニューオーリンズから45分くらいの地区)の出身で、高校の頃からの友人だよ。彼は僕のお気に入りのギタリストで、僕が組んだバンドほぼ全てでギターを弾いてもらってきたんだ。2006年から一緒にいろんな音楽を作っているけど、最も多才なミュージシャンの一人だと言えるよ。彼のバックボーンはJimi HendrixやTorhino Horta、Q-Tip、Charlie Hunter、D’Angeloとかなんだけど、高校生の頃、彼の車に乗ってドライブしていると車の床そこらじゅうにCDが転がっていたのを今でも思い出すね。放課後一緒にBaden PowellやJohn Coltrane、A Tribe Called Quest、Madlibまでいろいろと聴いていたな。今ではニューヨークでトップクラスのギタリストで、自身のギタートリオのデビューアルバムも制作中なんだ。楽しみだね。

 

 – ジェシー・リー (サックス/シンセサイザー)-

JESSI

イリノイ州シカゴ出身で、アルバムではサックス、シンセ、コーラスを担当しているよ。2009年にマルコムと一緒にしたパフォーマンスの時に初めて出会ったんだけど、彼女はジャズスタンダードの“What is This Thing Called Love”を演奏していたんだ。それを聴いた時に本当に感動してすぐに友人にならなきゃと思ったんだ。一年後The Love Experimentに入ってくれと頼んでそれ以来の友人だよ。ジェシーは僕が知る中で最も勤勉なミュージシャンの一人で、グループが縮小した時、シンセやコーラスまで担当してグループを補強してくれたんだ。数年前には“Perception Filter”という素晴らしいジャズアルバムをリリースしたし、最近では彼女が全面プロデュースのLAを拠点に活動するヴォーカリストNandi KとのエレクトリックプロジェクトであるNandiJayの作品をリリースしたばかりだよ。もう一つ彼女の素敵なところは、素晴らしいケーキ職人でもあってみんなの誕生日にオリジナルのケーキを作ってくれるところだね。ある年、僕の誕生日に、アイスでツマミやパッドまで模造したMPCドラムマシーンを再現したケーキを作ってくれたこともあったな。笑 たまたま彼女とは誕生日が一日違いということもあって、The Love Experimentとして初めてショーをした僕が二十歳の時から毎年一緒に誕生日を祝っているんだ。彼女はCharlie Parkerや80年代のヒット曲、Michael Jackson、Teddy Pendergrass、Radioheadなんかから影響を受けているね。今は“Deep Rest”というヴォーカリスト兼プロデューサーとしてのソロEPを制作中だよ。

 

 – パーカー・マクアリスタ (ベース)-

PARKER

ニューヨークのブルックリン、それもThe Norotious B.I.G.が育ったベッドフォード=スタイベサンドの出身だよ。パーカーとはニューイングランド音楽院で出会って、キャンパスで数少ない黒人同士だったということもあってすぐに打ち解けたね。彼はこれまでSweet Honey in the RockやHypnotic Brass Ensemble、黒田卓也といったたくさんの素晴らしいアーティストと一緒に世界中をツアーしたことがあるんだ。インドにあるスワーナバホミ・アカデミー・オブ・ミュージックのゲスト講師でもあり、ニューヨークで14歳の頃からプロとして活動しているよ。パーカーと僕はいろんなグループで一緒に活動していて、定期的にコスタリカにレクチャーをしたり演奏したりしに行っているんだ。メンバーの中で最年少だけど、古株として頼りにしているよ。彼は父親気質なところがあって、グループのみんなのバランスをうまく取り持ってくれるんだ。バンドの拠点をニューヨークに移してから、ブルックリンにある彼の実家のリビングでよくリハーサルもしているよ。素晴らしいベーシストであるだけでなく、素晴らしい友人でもあり、車を持っているのは彼だけだったからショーの移動でも力になってくれたな。笑 彼は今も様々なグループと定期的に世界中をツアーで飛び回っているよ。PrinceやStevie Wonder、Marcus Miller、Earth Wind & Fire、Busta Rhymesあたりから影響を受けているね。
 

 

– デヴォン・ディクソン (ヴォコーダー)-

DEVON

一番新しいメンバーの彼はニューヨークのクイーンズ出身で、パーチェスカレッジ音楽院のジャズ専攻科を卒業した完成されたキーボーディスト/オルガン奏者だよ。ニューヨークの数多くの教会でミュージックディレクターをやりながら、テレビライセンス代理店の作曲家でもあるんだ。パーカーがすすめてくれたデヴォンの教会でのパフォーマンスに行った時に知り合ったんだけど、実はこの時彼に一度クビにされて、後々バンドで企画したクリスマスパーティーのサポートメンバーとして入ってもらうまで、一緒に演奏する機会はなかったんだ。でもそこで本当にいい仕事をしてくれて、当時新しいキーボーディストを探していたこともあってバンドに加入してもらうように頼んだんだ。シンプルなコンピュータープログラムでどんなシンセでも使いこなせるから彼のことを「マッドサイエンティスト」と呼んでいるよ。笑 去年からこのアルバムのライヴ演奏もしてくれていて、効果音やソフトシンセ、ヴォコーダーに関するもの全般、Son Lux、Gungor、 Herbie Hancock、Doobie Powellなんかをよく聴いているね。今はニューヨークのいろんなグループで演奏しているよ。

 

 – マルコム・キャンプベル (ピアノ/キーボード)-

マサチューセッツ州レキシントン出身で、ニューイングランド音楽院とハーバード大学のデュアルディグリープログラムの最初の卒業生なんだ。2008年に出会って意気投合してすぐ、2009年から彼のジャズトリオで演奏するようになって、それがThe Love Experimentの始まりさ。当時、バンドを組んでどんな方向性の音楽をやりたいかを相談したことがあったんだ。そしたら数週間後に彼から電話があって、そのバンドでハーバード大学のショーで演奏しないかと誘われたんだ。マルコムは真の天才だよ。ハーバード大学で物理学の学位を取得して、ニューイングランド音楽院のジャズ専攻修士号も持っているんだ。今はThe Love Experimentとしてのバンド活動はしていないけど、今回のアルバムではInterludeやソロピアノのパートは全て彼が弾いていて、“Waiting”や“Want Your Love”のアレンジや作曲等、いろんなところで貢献してくれているよ。音楽的にはRachmaninoffや Oscar Peterson、D’Angelo、J Dillaあたりから影響を受けているね。今はスタンフォード大学で神経科学のPHDを取得する傍ら、“For the Meantime”という素晴らしいアルバムを制作中だよ。

 

– ガボ・ルーゴ (プロダクション/パーカッション)-

プエルトリコのサンフアン出身で『Sensei(先生)』と呼んでいるよ。2009年にサンフアンのストリートで演奏していた時に少しだけ接する機会があったんだ。でもその時知っていたのは彼がバークリー音楽院に通っていてボストンに住んでいるということくらいだった。その翌年にまたボストンで会う機会がって、素晴らしいパーカッショニストであるということだけでなく素晴らしいプロデューサーでもあると知ったんだ。数年後The Love Experimentと仕事がしたいと彼からコンタクトがあったんだ。その時まで彼が優れたレコーディングエンジニアでもあるということも知らなかったよ……本当に職人気質で、口数も少ないから、僕たちは音楽を通して会話してきたって感じだね。本当に二言三言くらいしか話さないから英語を話すことを知ったのも最近になってだね。笑 でもガボと僕はレコーディングや、プロデューシング、ミキシングで数えきれないくらいの時間を一緒に過ごして、その間に音楽だけでなく人生についてもいろいろと教わって僕にとっては兄貴みたいな存在さ。彼はFlying LotusやGiovanni Hidalgo、Bjorkなんかから影響を受けているね。今はニューヨークのカーネギーホールで音楽プロデュースの教鞭を取っているよ。

 

他のメンバーは、今はバンドとして一緒にパフォーマンスはしていないけれど、みんな家族の一員だよ。ジェイク・ボールドウィンやワイアット・パルマー、ベン・ステップナーがいなければこんなアルバムには仕上がらなかった。みんな長年一緒に活動してきて素晴らしい才能を持った人たちばかりだよ。ジェイクはミネソタでRa Ra Ruというバンドでアルバムもリリースしているし、ワイアットはボストンで活動しながら教鞭も取っている。ベンは素晴らしいキーボーディストであるだけでなく、Pure Potentiality Recordsというインディーレコード会社のプロデューサー兼経営者でもあるんだ。

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Q:The Love Experimentというグループ名の由来を教えてください。

A:元々は冗談のつもりで付けた名前なんだ。The Love Experimentとしての最初のパフォーマンスは、学校のタレントショー用に遊びで集めたバンドだったんだ。正確に言えばThe Charles Burchell & Oliver Watkinson (当時のベースプレイヤーの名前) Love Experimentだったんだけど、その頃にはグループを結成する準備が整っていたからThe Love Experimentだけを残してグループ名にしたんだ。グループのために作った最初の2曲は僕が経験したひどい失恋にインスパイアされたもので、ほとんどの曲が恋愛で経験することについてなんだ。これは後になってわかったことなんだけど、The Love Experimentというのは愛や人との関係の本質に関する哲学の一種でもあるんだ。誰も実際に誰かと関わりを持つまでその関係がうまくいくかどうかなんてわからないのさ。いつだって“Experiment(実験)”なんだ。

 

Q:チャールズさんはBlack Samuraiというプロジェクトもやっていますよね?The Love Experimentとはどういう違いがあるのでしょう? また、クリスチャン・スコットが師匠とのことですが、具体的にどんな影響を受けましたか?

A:Black Samuraiは僕のビートプロジェクトだね。元々はThe Love Experimentを僕のビートを演奏するグループにしようと考えていたんだけど、曲を作っていくうちに他のメンバーがどんどんアイデアを持ち寄ってきて、このプロジェクトは自分のヴィジョンよりもっと大きくてコレクティヴなものにするべきだと思い始めたんだ。それと、僕は剛柔流空手を習っていることもあって、規律正しく、精神統一することの大切さを教えてくれるサムライの伝統をリスペクトしているんだ。だからBLVK Samuraiというのは、音楽に対してもサムライのように常に集中力を持って緻密でいるようにという自戒の意味も込められているんだよ。
Christian Scottと彼の叔父Donald Harrisonは僕の故郷でもあるニューオーリンズ出身のジャズミュージシャンで、僕が高校生の頃からいろいろとお世話になっているんだ。自分自身がアーティストでいるということと、若い世代に自分が持っているものを教えていくという両面で彼らにはインスパイアされたよ。プロとして始めてのパフォーマンスや人に教えるという経験を与えてくれたのも彼らなんだ。特にChristian Scottは今のジャズミュージックシーンを牽引する人物で、彼の音楽に対してアプローチする際の大胆さは、新しいサウンドや方向性を創ること=従来の型にはまらないことの大切さを教えてくれたよ。

 

GORGEOUS + Christian Scott aTunde Adjuah

 

Q:チャールズさんは地元ニューオーリンズでハリケーン・カトリーナに被災したことが人生の大きな転機になったようですが、それは具体的に音楽家としての人生にどう影響を与えましたか?

A:シンプルに表現するなら、カトリーナを経て音楽学校生からアーティストになることを決意したっていうことだね。当時は、『A Love Supreme』 – John Coltraneや『Late Registration』- Kanye West、『Be』 – Common、『Percussion Bitter Sweet』 – Max Roachといったアルバムに夢中になっていたんだけど、カトリーナの後、ニューオーリンズに戻ってあのEllis Marsalis(Wynton Marsalisの父)が人のほとんど入っていない会場で演奏していたのを見てショックを受けたよ。僕がニューオーリンズを出た頃は考えられないことだったからね。でもその会場にいたみんなが一斉に盛り上がる瞬間があったんだ。まるで悲惨な出来事なんてなかったかのようで、音楽や芸術がどれだけ人々の生活に影響を与えるかを目の当たりにした瞬間だったよ。一時的にだとしても、音楽で人々を楽しませると同時につらい経験から解放できるんだ。自分がいろいろと大変だった時期に、平常心を保てたのもさっき挙げたアルバムのおかげだったと気づいたんだ。自分が生まれ育った街が復興していくのと、アーティストのコミュニティが人々を支えるのを見て、音楽の力で世界を癒すことができるんだって感じ取ったよ。

 

Q:それでは、The Love Experimentの音楽についてお聞きします。ソウル、ジャズ、エレクトロニカなどが混ざり合った音楽性は独特ですが、以前チャールズさんにお話を聴いた時は、グループの音楽を「Future」と表現されていました。改めて、あなたたちの音楽を何と呼べばいいでしょうか?

A:自分たちでは『フューチャー・ソウル』と呼んでいるよ。個人的に、2003年以降 のソウル/R&Bにおけるバンドやグループといったものがなくなってしまったように感じていたこともあって、活動を始めた頃はソウル/R&Bに再びバンドスタイルを取り戻すことが狙いだったんだ。でも活動をしていくうちにこのグループを今世紀のブラックミュージックの象徴としてもっと幅を広げていきたいと思うようになっていった。それからブルースやジャズ、ファンク、ヒップホップ、ソウル、テクノやハウスといったエレクトロニカ、最近のLAビートシーンで盛んなグリッチホップなんかを取り入れて、バンドの音楽の方向性に大きく影響を与えていったんだ。Flying LotusやJ Dilla、Madlib、Samiyam、Teebs、Dam Funkといったアーティストに本当に影響を受けていて、彼らのようなサウンドをどうすればバンドで表現できるかを追求したかったんだ。きっかけとしてネオソウルやヒップホップだっただけで、ジャンルを超えて自分たちのサウンドを押し広げようとしているから『フューチャー・ソウル』 という表現がしっくりくるんだ。このアルバムの大半の曲が2011〜2012年に作られたんだけど、今のサウンドとして聴くことができると思っている。常に4〜5年先のことをイメージして形にするようにしているんだ。だから今がまさに僕たちの音楽が受け入れられるタイミングだと思っている。2012〜2015年は音楽シーンが大きく変容して、2012年当時は受け入れてもらえなかったリスナーにも今だったらきっと僕たちの音楽が伝わると思っているよ。

 

Q:今回のアルバム用に書き下ろした新曲はどれでしょう?

A:“School Girl”、“Friends”以外全部だね。

 

 

Q:“School Girl”はニューオーリンズ・ジャズっぽいホーンが出てきたり、終盤でニューオーリンズ・バウンス的なビートが出てきたりしますが、これは意図的なものでしょうか?

A:ほぼ偶然だね。この曲の元々のバージョンはもっとD’Angeloみたいな雰囲気だったんだけど、ドラムを変えたことでもっと生々しい感じにしたんだ。このホーンラインは僕とキムで作ったんだけど、この曲をライブで演奏する時はニューオーリンズっぽいイントロで始まるんだ。ニューオーリンズのフレイヴァーが感じられるのは僕にとっては嬉しいことで、ニューオーリンズ出身であるということは、ブラスバンドや伝統的なジャズサウンドが、どんな音楽をやっているかに関係なく、僕のDNAの中にあるってことだと思うよ。

 

Q:“Heejin’s Theme”は非常に美しいインストですね。 これはどう作ったんですか?

A:グループの一員であるZwelahke-Duma Bell Le Pereが作った曲だよ。彼はThe Love Experimentとは別のところでベースを演奏しているんだけど、僕の長年の親友でもあるんだ。彼と一緒に住んでいた頃にストリングスを使った曲をたくさん作っていて、ある日彼がこの曲を持ってきたんだ。この曲は子守唄が土台になっていて、恋に落ちる子供のようなフィーリングを表現しているんだ。

 

Q:キム・メイヨーのヴォーカルはどんなところがスペシャルだと思いますか?

A:たくさんあるけど、まずキムはリリックを解釈して沸き起こる深い感情をとてもシンプルなメロディーに乗せて表現することができるところだね。歌から感情を引き出すためならヴォーカルの表現を変えることも物怖じせずにやってしまうしね。それにフォークやジャズ、エレクトロニカ、R&Bといったいろんな音楽の環境に身を置いて、そこで受けた影響をThe Love Experimentに還元してくれところも素晴らしいと思っているよ。彼女のヴォーカルスタイルを表現するのに一番しっくりくるのは、「型破りなソウルフル」といったところかな。BjorkとErykah Baduが混ざった感じだね。彼女のヴォーカルにおける手法だったりヴォーカルにエフェクトをかけることに抵抗がない実験的な姿勢にはいつも驚かされるよ。彼女はまた素晴らしいジャズシンガーでもあり即興にも強いんだ。次のアルバムではギターもしくはピアノだけで彼女がジャズバラードを歌う曲を用意するつもりだよ。一度彼女の“God Bless the Child”を聴いた時、涙が流れたことを覚えているよ。5年後彼女がさらにどう進化するか楽しみで仕方ないよ。

 

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Q:ではそのリリックの面において何か意識していることは?

A:ほとんどのリリックが愛についてのもので、恋に落ちたり、失恋したりについてのものだよ。僕が大半を書いた曲(“Slow”、“Friends”、“Beautiful”)のリリックに関して言えば、僕が失恋によって味わった苦い経験をもとに書かれたものなんだ。もっとアップ・ビートの“School Girl”や“Want Your Love”でさえそういった一種の不安定さが少し込められているね。ラブソング!というよりもラブソング?っていう感じだね。笑

 

Q:最近のアーティストで影響を受けた人は誰でしょう? 以前、お話しさせてもらった時は繋がりのあるミュージシャンとしてBIGYUKI、黒田卓也、そしてジェシー・ボイキンズらの名前を挙げていましたし、フライング・ロータス、サンダーキャット、ロバート・グラスパー、ケンドリック・ラマーなどの名前も挙げてくれましたが、やはりそうしたアーティスト達からの影響を受けているのでしょうか?

A:今挙がった全てのアーティストに影響を受けているよ。たくさんのアーティストがプロダクション(打ち込み)とライブパフォーマンスの音の境界線をなくそうとしている今の時流が好きなんだ。音楽についての考え方を変えたターニングポイントに関して言えば、Robert Glasperの名前は外せないね。高校生の頃にChris Daveのブート版のレコーディング音源をよく聴いていたよ。(今どこにあるかわからないけど)それは本当に素晴らしい内容だった。ミュージシャンの集団が音の質感やリズム、音楽のスタイルを、ヒップホップをベースに即興で演奏するというのを始めて聴いたのが彼らだった。僕の中ではヒップホップは即興で楽器を演奏するというイメージはなくて、サンプリングしてループするものだと思っていた。だけどRobert Glasper Experimentがその考えを変えてくれたんだ。

Flying Lotusの『1983』は同じような影響を僕に与えたね。今までに全く聴いたことがないもので、音楽でどうゆうことをやりたいかを完全に変えたよ。今でもあのアルバムみたいに冒険的なことやろうとしているんだ。

そして初めてThundercatのライヴを観た時のことを覚えているけど、今まで観た中で最も素晴らしいライヴの一つだったよ。踊り狂う3000人のオーディエンスに混ざってJohn Coltraneが憑依したようなThundercatのベースソロを聴いた経験は強烈だった。現代的な手法で即興でエレクトロミュージックを演奏して人々と繫がるという扉が開かれたと感じたよ。

Kendrick Lamarの『To Pimp A Butterfly』(Flying LotusやRobert Glasper、Thundercatがフィーチャリングされている)を聴いた時はまさに夢が叶った気がしたなぁ。長年Kendrick Lamarの音楽には注目していて、Flying LotusやThundercatといったLAのビートシーンのミュージシャンとコラボを待ち望んでいたんだ。Flying Lotusの“Never Catch Me (feat. Kendrick Lamar)”を聴いた時に期待が膨らんだんだけど、『To Pimp A Butterfly』を聴いて確信したよ。音楽がこれまでと完全に変わったとね。あのアルバムで聴けるエレクトロプロダクションと生楽器演奏の融合は、僕にとってこれからの時代の音楽の青写真だよ。いつかFlying LotusやKendrick Lamar、Thundercatとコラボできる日が来るのを待ち望んでいるよ。

黒田卓也とは一緒に演奏したこともあるし、BIG YUKIのようなアーティストは本当に素晴らしいと思うよ。彼らは二人ともイノベーターでエレクトロジャズミュージシャンの新しい旗手だね。

 

Flying Lotus – Never Catch Me ft. Kendrick Lamar

 

Q:また、The Love ExperimentとMad SattaとButcher Brownは兄弟バンドみたいなものだと仰ってましたが、どういう部分で共鳴しあっているのでしょう? 日本では、あなたたちの音楽をハイエイタス・カイヨーテ、ジ・インターネット、キングなどとも比較されそうですが。

A:Mad SattaやButcher Brownのメンバーとはバンドを始めた頃から知り合いなんだ。彼らとは一緒にツアーをしたし、コラボをしたこともあるよ。彼らはこれからくるアメリカのソウルミュージックの新しい波の代表格だと思っている。
The InternetやKING、Hiatus Kaiyoteとのようなグループは、バンドとして僕らが目指している音に間違いなく近いものがあるよ。The Internetの最新アルバムは大好きで、KINGに関しては1枚目のEPの頃からずっとファンさ。Hiatus Kaiyoteも独特のコンセプトを持っていて、彼らの音楽からもJ DillaやMadlibの影響を感じるね。

 

Q:チャールズさんはお子さんが生まれたそうですが、そのことが何か今回のアルバムや音楽活動に影響を与えましたか?

A:このインタビューを受けた頃、息子は生まれてまだ一週間だったよ。本当にこれまでの人生で最も美しい経験だった。イタリアのローマにある家で生まれたんだけど、彼が生まれる時にコラ(アフリカン・ハープ)を弾いたんだ。文字通り、音楽によってこの世に生を授けた気分だよ。彼が生まれるということがわかっていたから、アルバムを早く仕上げることができたのは間違いないことだね。でも彼の影響は僕が今後作る音楽に出てくると思うよ。ちなみに彼の名前はZen(禅)っていうんだけど、彼はこれまで見た中で最高の芸術だね。

 

Q:最後に、こうしてアルバムが日本でリリースされることについて一言お願いします。

A:友達と一緒にこのアルバムを大音量で聴くことをおすすめするよ。昔からずっと日本のアーティストや文化が大好きで、日本のみんなにもこのアルバムを買って楽しんでほしい。いつか日本に行ってこのアルバムをライヴで演奏できることを本当に楽しみにしているよ。