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ナイジェリア出身で現在はベルリン在住のシンガーソングライターWayne Snow(ウェイン・スノウ)。ベルリンのみならずニューヨークやロンドン、シドニーなど世界中でパフォーマンスを行い、90年代のアメリカンヒップホップ、R&Bに独自の解釈を加えながら展開する刺激的なグルーヴで話題を呼ぶ彼が4月12日にアルバム『Freedom TV』をリリースする。

いよいよ来週に迫ったアルバムリリースに先駆け、ピュアに音楽を追求し表現し続ける彼のインタビューを公開。「自由」「闘争」「創造性」をテーマにバップ、ソウル、ジャズ、ハウスなど、多彩なサウンドがひしめき合う珠玉の楽曲の数々が収録された本作を生み出したWayne Snowの出自や、プロデューサーMax Graefとの出会い、そして『Freedom TV』というタイトルに込めた想いなどを語ってもらった。

-あなたはベルリン在住のナイジェリア人ということですが、生まれた国や家族、どういう環境で育ったかなど、バックグラウンドを教えてください。 

僕はナイジェリアのアグヘリと呼ばれる小さな町で生まれて、南部にあるデルタ州の大都市の一つ、ウォーリという町で育ったんだ。デルタ州を拠点にしているウルホボという部族の血を引いているよ。デルタ州は天然資源が豊富(石油産出州として有名)だけど乱獲されていて地元住民の生活は困窮しているんだ。僕の家族も毎日の食料を探すのに必死だったからね。そんな状態だとほとんどの人が楽器を買うことももちろん出来ないから、音楽をやること自体が贅沢だったね。

 

-ベルリンを活動の拠点に選んだ理由はなんだったのでしょう? あなたの音楽からはビート・ミュージック〜ブロークンビーツとディープ・ハウスの融合といった印象を受けましたが、ベルリンと言えばテクノやハウスの産地でもありますしそういったところも関係していたのでしょうか?

実は僕は音楽を創る時に特定のジャンルを意識したことはないんだ。むしろそんなこと考えたこともなくて、ただグルーヴに合わせて好きなように感情を表現していった結果がこういう音楽の形になっただけさ。ベルリンを拠点に選んだ理由は、黒人である自分のルーツに疑問を持つことなく自由に音楽を創れる場所が必要だと感じていた当時の僕にとって、ベルリンがまさにそんな場所だったっていうことだよ。

 

Wayne Snow – FALL (official)

 

-では影響を受けたミュージシャンやクリエイターなどがいれば教えてもらえますか?

さっきの話にも繋がってくるんだけど、特定のものに縛られないでいろんなものや人から影響を受けているよ。それが帰宅途中に聞いたドビュッシーの「亜麻色の髪の乙女」の時もあれば、友人がつくったヘッドバンギングの時もある。あらゆる可能性に対して常にオープンマインドでいるように心がけているんだ。

例えばボーカル面ではMarvin GayeやNusrat Fateh Ali Khan、Prince、Yma Sumacr……たくさんの偉大なヴォーカリストから影響を受けてきたよ。でもどうやって自分の声を楽器のように操るかを、みんなそれぞれ違った解釈で教えてくれたから一人だけを選ぶことは不可能だね。

 

-楽曲の作り方やプロセス、使っている楽器や機材などについて教えてください。

MIDIキーボードやエレキギター、パーカッションなんかを使うね。日頃から自宅でいろいろと実験しているけど、これと決まった楽曲作りのやり方はないかな。ただ確かなことは、スタジオではボクサーのように戦い、もがき苦しんでいるってこと。曲を作る時は全身全霊を捧げるからね。

 

-またあなたはこれまでに世界各国でパフォーマンスを行ってきたという話も聞いています。どういうライブなのでしょうか?

ステージに立つとある種の恍惚状態になるんだ。音楽しか聞こえなくなるし、音楽以外何もいらないってね。そのエネルギーをオーディエンスに送るのが好きなんだ。日本ではまだパフォーマンスしたことはないけど、その日が来ることを楽しみにしているよ。

 

-では今回リリースする『Freedom TV』について少しずつお聞きしていきます。あなたの作品においてはMax Graefがキーパーソンとなっているようです。2014年に彼の“Rivers Of The Red Planet”に客演、Maxはあなたが出した2枚の『Red Runner』と『Roise』を手掛けていますが、Maxとの出会いや関係、音楽的な特徴などを話してください。

Maxが自身のアルバムをレコーディングしていたある朝、彼のマンションで共通の友人であるJulius Conradを通して会ったんだ。ほんの少しだけ話して、そのまますぐにレコーディングに入ったよ。最初に一緒にやった曲「Running」はたった2時間で仕上げたんだ。Maxは僕が知るプロデューサーの中で一番仕事が早いね。あと彼の特徴の一つは、彼はジャズのインプロビゼーションの生々しさが好きな人だから、いつも最初のテイクはキープしていることだよ。

 

Max Graef feat. Wayne Snow – Running (Official)

 

-Max以外に楽曲の制作を手がけるNeue GrafikとNu Guinea についても教えてください。

Nu Guineaは素晴らしいプロデューサーチームだよ。ボックスハーゲナー・プラッツにある彼らのスタジオに行くと毎回新しい機材を紹介してくれるんだ。彼らがTartelet Recordsから最初のEPをリリースしたほんの少し前に知り合って、それ以来ずっと一緒にいろいろと実験してきた仲だよ。

Neue Grafikは僕にとってパリの兄弟といった感じだね。彼のことをMPCを操るThelonious Monk(ジャズ・ピアニストの偉人で独特なセンスの即興演奏でも知られた)だと思っているよ。彼がビートを作るのを観ているとワクワクするんだ。強さと脆さ両方を同時に表現できる素晴らしいプロデューサーだよ。僕のライブアクトに参加すると決心してくれてとても嬉しいよ。

 

-アルバムは「自由」「闘争」「創造性」がテーマだそうですが。タイトルの『Freedom TV』にはどういう意味が込められているのですか?

現代は「自由」という概念について疑問を抱く時代になったと思うんだ。「本当に自由なのか?」「本当に自由になれるのか?」「本当の自由って何だ?」というふうにね。『Freedom TV』はそういったことに対する僕の考えを表すプラットフォームだと思っているよ。みんなが同じように自問自答できるきっかけになればいいと思っているんだ。

 

-“Freedom R.I.P.”にはジンバブエの女性詩人であるFreedom Nyamubaya(※)のポエムの一節を引用していますよね。惜しくも2015年に亡くなってしまいましたが彼女のことをどう思っていますか。

僕は彼女のことをアフリカが必要とする真の戦士だと思っているんだ。銃を捨て、ペンと声で人々に力を与えたんだからね。音楽に関わっている時も常にこのことを意識して、自分の限界を超えるための力にしているよ。

※編集者注
Freedom Nyamubaya(1958? – 5 July 2015)はジンバブエの女性詩人。ローデシア紛争(1965 – 1979。当時の植民地政府が白人中心のローデシア共和国の独立、人種差別政策を推し進めたことに対して黒人側が政権打倒と黒人国家の樹立を目指してゲリラ戦を展開した紛争)において数少ない女性指揮官として有色人種解放運動に参加。ジンバブエ独立後も戦争で居場所を失った難民達に農耕教育などの形で解放運動を続け、「On the Road Again」と「Dusk of Dawn」という2つの詩集を発表したことから”guerilla fighter-poets”(=戦うゲリラ詩人)として世界に知られるようになった。本作収録の“Freedom R.I.P”では「On the Road Again」の中の“Introduction”から、下記の一節が引用されている。

Now that I have put my gun down
For almost obvious reasons
The enemy still is here invisible
My barrel has no definite target
Now
Let my hands work –
My mouth sing –
My pencil write –
About the same things my bullet
aimed at.

(編集者訳)
今まさに銃を下ろす時だ
その理由は明らかだ
まだ目に見えない敵がここにいる
もう銃で狙うターゲットはいない
今まさに
その手で働こう
その口で歌おう
そのペンで記そう
弾丸で狙いをつけるのと同じように

 

-“Rosie”をリミックスしているHurbert Daviz、“Red Runner” をリミックスしたGlenn Astro、IMYRMINDについても教えてください。

個人的にもGlenn AstroとIMYRMINDの大ファンなんだ。この二人が組んだら最強だよ。素晴らしいグルーヴ感覚の持ち主で、初めて彼らの“Red Runner”のリミックスを聞いた時、自分の耳が信じられなかったよ。Hubert Davizとは会ったことはないんだけど、Maxの良き友人で“Rosie”のリミックスを頼んだのもMaxなんだ。彼のユニークなアプローチには驚かされたよ。僕が知る全てのプロデューサーの中で彼は過小評価されていると思う。トップに君臨すべき存在だよ。

 

-今回ついにアルバム・デビューしたわけですが、次作以降はどんな音楽を作っていくつもりですか?

まだ検討もつかないね。まだまだ探求すべきことがたくさんあるって感じさ。