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2月12日、代官山LOOPで行われたNao Yoshiokaの2017年初となるバンドセットライブ「Nao Yoshioka Live 2017 -The Sound from Tokyo」。そのタイトルの通り自身が追求する普遍的かつ世界最先端の音楽を東京から世界に発信することを目指した新たな試みも見られた同ライブをライターの林剛氏がレポート。ライブ写真とともに振り返る。

2016年9月に発表したサード・アルバム『The Truth』はNao Yoshiokaが新たなステップに進んだことを伝える革新的な内容で、現代の空気を纏って歌い、恐れることなくチャレンジしていくという強い意志を見せつけていた。昨年11月に東京[赤坂BRITZ]で最終日を迎えた全国ツアー〈The Truth Japan Tour 2016〉では、そのアルバムの全貌をいくつかのカヴァー曲とともに披露したわけだが、Naoのホームとも言える[代官山LOOP]で行われた2017年初めての公演〈Nao Yoshioka Live 2017 -The Sound from Tokyo-〉は、“東京から発信するサウンド”を謳い、予想の斜め上をいくアレンジと展開で、かつてなく凝ったステージを見せてくれた(二部入れ替え制で、筆者が観たのはセカンド・ステージ)。

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結果から言うとセットリストは、若干のカヴァー曲とファースト/セカンドの曲を挿みつつ、『The Truth』(通常盤)のイントロとアウトロを除く全曲を大胆なアレンジで聴かせるといったもの。演奏は過日の全国ツアーを支えた〈Nao Yoshiokaバンド〉(正式なバンド名をつけたくなるほどの一体感、結束力だ)のメンバーたちで、今回はバンマスでベースの松田博之、ドラムスのFUYU、ギターの田中“Tak”拓也、キーボードのJamba、バック・ヴォーカルの鎌田みずきと吉岡悠歩の6名がステージに立った。加えて今回は初の試みとしてマニピュレーターを起用し、生演奏以外の音(データ)を同時に走らせる、いわゆる同期演奏を実践。それによってサウンドに厚みが加わり、重量感のあるバッキングでアグレッシヴなライヴ演出をしていた。

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バンドとコーラスの熱いジャムを序曲としてステージに登場したNaoがまず歌ったのは、『The Truth』の中でもとびきり革新的でユニークな「Spark」。セクシーな声でまとわりつくように歌う、その表情や間の取り方は、彼女が大きな声で歌い上げるだけの喉自慢的なシンガーではないことを伝える。UKメロウ・グルーヴな「Beautiful Imperfections」も安定のパフォーマンスで、FUYUのドラムスやTakのギターが攻撃的な一面も見せる。と、ここまでは予想の範囲内だったのだが、驚いたのは続いて歌った「Feeling Good」。ニーナ・シモンの名唱で知られるこの曲はデビュー作『The Light』のオープニングを飾っていたものだが、これまではライヴでも原曲どおり古式ゆかしきスタイルで歌っていたところを、今回はシンセ音を強調したタイトなフューチャー・ファンクにしてガラッとアレンジを変えてきたのだ。まるで『The Truth』の収録曲であるかのように。今のNao Yoshiokaはこうなのだ!と改めて見せつけられた一幕だった。

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「皆さんへの感謝の気持ちを込めて」と前置きして歌ったルーファス&チャカ・カーンの「Sweet Thing」では、スウィートな歌い出しから徐々にメラメラと燃えていくチャカの緩急つけた歌唱をほぼ忠実に再現。それを挿んでの「Set Me Free」がこれまた新鮮なアレンジで、こちらはTakのギター一本をバックに歌うアンプラグドなスタイル。ここまで正面切ってアコースティックにきめたNaoも珍しい。その余韻を引きずるようにアコースティックなギターのリフが印象的な「Freedom & Sound」を披露。流れを一瞬遮断するようなFUYUのドラムスも絶妙で、Naoの歌もくっきりと浮かび上がる。

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が、ステージ、客席ともにヴォルテージが上がってきたのは新作のタイトル曲「The Truth」から。Naoの歌にも一層力が入り、今やライヴの定番となった『Rising』収録のゴーゴー・ソング「Forget About It」へと繋げて大爆発するこの展開には心が躍れば体も踊る。日本でのライヴはもとより、アメリカの観客を相手にする時にも効果を発揮するだろう勝負パンツ的な一曲。観客を煽るヤンチャな感じと気っ風のよさ、そして自由自在なヴォーカルには毎度ながら心がスカッとするし、合いの手を挿むように掛け合うコーラスのふたりも実に熱い。間奏でのFUYU、Tak、Jambaによる丁々発止なインタープレイも盛り上がる。こんな感じがもっと続けばいいのに……との思いに応えてくれるように、ゴーゴーのリズムをキープしたまま歌ったのはアース・ウィンド&ファイアの「Shining Star」。このアレンジも斬新だった。とにかく楽しそうだし、Nao Yoshiokaというシンガーは体質的にファンクが一番向いているんじゃないか?ということを改めて思った次第……などと考えていたら、「これで終わりと思ったら大間違いですよ!」と言ってミッドナイト・スターのデジタル・ミッド・グルーヴな名曲「Curious」を歌い出す。こうした打ち込み系の80sアーバンなR&Bは今のトレンドだし、何より今回は同期演奏だからこそ挑戦できた曲でもあったのだろう。

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メロウな鍵盤のイントロに導かれて始まった新作屈指のスロウ・ジャム「I Love When」での天に突き抜けるような美声、本編ラストを飾った「Borderless」でのスムーズに前進していくようなカッコ良さも申し分なし。アンコールでは〈The Truth Japan Tour 2016〉で初披露して好評だったアルバム未収録のスロウ「Possibilities」を再び。しっとりとした曲自体の素晴らしさもさることながら、“可能性”を求めていくというメッセージが今のNaoの気持ちを表しているようで、これもファンの心に響いたことだろう。現時点ではライヴでしか聴けない曲なので、いつか音源リリースされることを期待したい。

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お約束の「Make the Change」も今回は歌わないという、過去にとらわれず前進あるのみといったスタンスが窺えたステージ。新作を引っ提げ、USメインストリームへの進出も視野に入れての新たな挑戦といったところか。同期演奏は初の試みということもあってか若干歌いづらそうな場面も見受けられたが、そこらへんは今後ステージを重ねていくことで解消されていくのだろう。いつも思うのだが、アイドル並みの天真爛漫なMCと力強くてセクシーな歌唱とのギャップが“萌え”を発生させてしまうのもNaoの魅力。そのMCにも良い意味で軽さが出てきて、これからはもっとふざけてもいいような気がしてきた。来たる3月24日には米ワシントンDCの名門ヴェニュー〈The Birchmere〉でラサーン・パターソンの前座を務めるという。早くも現地での活躍ぶりが目に浮かぶようだが、さらにスケールが大きくなった彼女が驚くようなニュースを届けてくれることを期待したい。(林 剛)

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