Make The Change Project

 
INTERVIEW 2015.5.15

日本に“本当の音楽シーン”を作りたい それには音楽の素晴らしさをわかってもらう努力が必要

レベルの高い音楽をそのまま出そうと思った時に、メジャーを飛び出してました。

渋谷の音楽シーンを牽引するインディペンデントレーベルorigami PRODUCTIONS。mabanua、Shingo Suzuki、関口シンゴ、Kan Sano、SWING-O a.k.a. 45など、今の音楽の現場には欠かせない類いまれな才能を持つプロデューサー兼プレイヤー達を擁するこのレーベルの代表が対馬芳昭氏だ。

「小学校3年生くらいで姉の影響で洋楽を聞くようになって、その1〜2年後にはもう洋楽しか聞かないようになっていました。ランドセル背負ってマイケル・ジャクソン聞いていましたよ(笑) それで遠足のバスとかで好きな音楽をかけていいって時に洋楽をかけたりすると、みんな目が点状態なんだけど中には「今の曲なに?」って聞いてくるやつもいて、こちらサイドにどんどん引き込みました。その延長上が今の仕事です(笑)」

こう自身のルーツを語る対馬氏。大学卒業後に広告代理店を経てビクターエンターテイメントで音楽の現場に足を踏み入れた。そこで洋楽の宣伝担当として8年を過ごしながらもある思いがあったそう。

「当時はD’AngeloやErykah Baduが盛り上がっていた時期だったんですけど、会社が大きい分、なかなかそういうジャンルに力を入れる事ができない。もちろんbmrやラジオのブラック系の番組なんかでは特集が組まれているんだけど、俺の周りに話が通じる人がほんの一部しかいなかった」

そんな日々を過ごしていた対馬氏にとって転機となったのがgrooveline、さかいゆうなど渋谷でアンダーグラウンドシーンを形成しつつあった才能たちとの出会いだった。当時渋谷のライブハウスPLUGで行われていたセッションへ足を運んだことがorigami PRODUCTIONS設立への足がかりとなったという。

「当時のPLUGでやっていたurbやgrooveline、SOIL & “PIMP” SESSIONSとかのセッションにはすごいプレイヤーがいっぱいいたんですよ。「あれ誰?」って聞くと「あぁ、Adriana Evansのバックでギターやってたやつだよ」とか言われてマジかよっていう(笑) でもそんなすごいプレイヤーたちが飯を食うために自分たちの目指す方向ではないものをやっていたりして。この状況を目の当たりにして、こんなにレベルが高くていい音楽があるならこれをそのまま出したいと思ったんですよね。それなら自分でレーベルをやりたいと思い、会社を飛び出しました」

そして退職後origami PRODUCTIONSを設立。現在に至るまでの8年間で確固たるブランドを築き上げながらも、少しずつ目指す方向は変化してきているという。

対馬芳昭 - origami PRODUCTIONS代表

今の日本に本当の意味で”シーン”と呼べるものはない
目標は次の世代が「面白い」と思う状態にすること

「音楽業界に長くいたこともあって、「変えてやろう」っていう意識が設立当時から強かったんです。ステレオタイプなものは嫌いだったし、新しいもの、誰もやっていないことをやろうと思っていて。でも最近ようやく新しいかどうかは関係なく、もっと本質的に良いものを見つめていこうと思うようになってきました」

さらにこう語る。

「このジャンルで本質的に良いものをやっているブランドとしてトップを走っているのはやっぱりJAZZY SPORTがありますよね。そしてPOPGROUP、SWEET SOULがいて……、そう考えるとこんな小さいマーケットで競ったり牽制し合う意味なんてない。だから今はorigamiにこだわるのではなく、シーン全体にとって有益になるのであればorigami自体はなくなってもいいと思うようになっています」

そんな対馬氏にとって ”音楽シーン” とはどういったものなのだろうか。

「正直、今の日本に本当の意味での”シーン”と呼べるものはないですよ。シーンというのは、カルチャーを生み出した時に初めて出来るものだと思っています。アイドルやビジュアルバンドは確かに”シーン”と呼べるカルチャーを作っていますが、これは音楽のシーンではない。ヒップホップやレゲエやハウスが生まれたような音楽的なジャンルの興隆が日本では起こっていないんですよね」

origami PRODUCTIONSやSWEET SOUL RECORDSなど一部の動きは確かにシーンを形作るための一つの動きではあるとしながらも、大きなムーヴメントにはなりえていないと対馬氏は語る。

「今思えば90年代のR&Bや渋谷系というのは一つのシーンになりかけていましたね。MISIAや久保田利伸、birdといったアーティストが出てきて、RHYMESTERなんかが日本語ヒップホップを形にしていったりして。でも今は、それを引き継いだ確かなカルチャーとなっているかというと疑問が残りますね」

そんな現状に対して、対馬氏の中である目標が見えてきているという。

「結局アメリカでソウルシーンが今も続いているのは、一度出来あがってきたシーンにその次の世代が受け継いでいきたいと思わせる面白さがあるからだと思います。だから、今の目標は引退する時に「俺はここまでやったよ」って言えるくらい面白い状態でバトンタッチする事です」

世代を超えて良い音楽を受け継ぎ、日本に初の音楽シーンを形作る礎を築く。一聴すると壮大に思えるが、対馬氏は既にその一歩目を歩みだしていた。

対馬芳昭 - origami PRODUCTIONS代表

音楽の何が素晴らしくてどこを聴いて欲しいのか
わかってもらう努力、プレゼンをもっとした方がいい

アイドルシーンが盛り上がる事自体は悪い事ではない。だが大人も含め、それだけが売れているのは「本で例えたら大人がいつまでも絵本ばかり読んでいる状態」と同じ。成長に合わせてさまざまな音楽に対する理解が広がっていかない現状の原因は、音楽を提供する側によるプレゼンテーションの不足にあると語る。

「最近の音楽業界って、CDが売れませんとかネガティブなプレゼンは得意なんだけど、音楽のここが素晴らしいぞっていうプレゼンが苦手だなと思っていて。この音楽の何が素晴らしくて、どこを聴いて欲しいのか、そもそもどういう仕組みで作られているのか、ミュージシャンは何をしているのか、そういったプレゼンをして、音楽を作るだけじゃなくてその音楽をわかってもらう努力をもっとした方がいいと思うんです」

音楽を解説する。この流れは今ヒップホップシーンで注目を集めている。ラップのリリックに対する解釈を自由に追加・編集するRAP GENIUSというSNSにおいて、NasやKendrick Lamarといった世界のトップを走るラッパーたちが直接自身のリリックの解説をしているのだ。

この流れに則り、対馬氏はPOPGROUP代表坂井田裕紀氏と共にDIS-LIVEというイベントを2014年12月に開催した。
DIS-LIVEはアーティストが音楽の仕組みや曲の聴かせどころを解説した上でライブを観る ”ディスカッション+ライブ”というスタイルのイベント。

「いわば音楽のプロ野球ニュースを作りたいんですよ(笑) プロ野球ニュースって結果だけじゃなくて、例えば去年と今年のバッティングフォームがどう違って、それがどういう結果をもたらすか解説してくれますよね。ここまでわかって見た方が、ただ投げて打って走るスポーツってことしかわからず見てる人より絶対面白いじゃないですか。音楽も一緒で、例えばセッション中にミュージシャン同士がニヤっとした瞬間に何が起こったのかわかるようになった方がぐっと楽しみは増えると思うんです」

多くの人が音楽をより深く知り、その魅力に触れてもらう。そのためには音楽を発信する側がより一層大きくプレゼンを行う場を作っていく。そう自身の目指す方向を語る対馬氏。最後に、全米デビューも控えたNao Yoshiokaにこんなエールを送ってくれた。

「Nao Yoshiokaって本当に今日本で一番すごいシンガーだと思うし、普通にグラミー賞をとるように成長してもおかしくないレベルのシンガーですよ。もし本当にグラミー賞とれそうだ、世界に出れそうだ、そんなアーティストがいたら誰だろうがどこのレーベルだろうが関係なく応援していきたいと思ったので、SWEET SOULさんに僕の持っている情報をどんどん提供してます(笑)彼女はそれだけのポテンシャルを感じさせます。日本人シンガーがグラミー賞をとったら、これは業界全体にとっていいことしかないし、応援していますよ」

RECOMMEND

『Rising』を聞いて連想したアーティストを紹介

  • Joy Denalane 世界では誰もが認める文句なしの"ジャーマン・ソウル界のクイーン"と称されているジョイ・デナラーニ。対馬氏曰く「Naoと同じ星から来た感じ」
  • Rufus Featuring Chaka Khan R&Bの女王チャカ・カーンが所属した伝説のバンドRufus。まさにSWEET SOULな逸品。
  • Anthony Hamilton アメリカ合衆国ノースカロライナ州、シャーロット出身の正統派R&B/ソウルシンガー。対馬氏曰く「性別は違えど、姿勢に共通点を感じる」
  • Aretha Franklin ご存知クイーン・オブ・ソウル。Nao Yoshiokaも彼女を敬愛しライブやアルバムでもカバー曲を披露している。
  • Brian Owens 「Naoとの相性抜群」と対馬氏が語るアメリカ期待のソウルマン。Marvin Gayeの再来と呼ばれるスマートなスタイルと熱いパフォーマンスは日本でも注目を集めた。

PROFILE

対馬 芳昭origami PRODUCTIONS

渋谷の音楽シーンを牽引するインディペンデントレーベルorigami PRODUCTIONSの代表。広告代理店とビクターを経て独立し、現在ではmabanua、Shingo Suzuki、関口シンゴ、Kan Sano、SWING-O a.k.a. 45など、今の音楽の現場には欠かせない類いまれな才能を持つプロデューサー兼プレイヤー達を擁するレーベルへと成長。音楽の素晴らしさを伝えるため、ディスカッションとライブが融合したDIS-LIVEというイベントをPOPGROUP代表坂井田裕紀氏と共に開催するなど活躍している。

INFO

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