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EXPERIMENT 01

WONKXTHE LOVE EXPERIMENT

BINARY

WONK

世界を見据えるエクスペリメンタル・ソウル・バンドWONK
海を超えて共作『BINARY』作り上げた彼らを導くファースト・ステップ

11月8日に、日本のエクスペリメンタル・ソウル・バンド“WONK”とニューヨークのフューチャー・ソウル・バンド“The Love Experiment”の共作『Binary』がリリースされる。海を越えて1つの作品をそれぞれの拠点からインターネットを介して作り上げるという試みを経て何を感じ、このプロジェクトが先の音楽シーンにどう影響していくのか。より深くその内面を追っていくスペシャルコンテンツの第一弾はWONKへのインタビューを敢行。自身でレーベル運営もこなし、世界を見据えた音楽活動を続ける彼らに話を聞いた。

ピュアにお互いの音楽だけを意識して制作出来たっていうのは大きな刺激(江﨑)

インタビュワー:今回のプロジェクトはSWEET SOUL RECORDS(以下SSR)の理念として「SPREAD REAL MUSIC」というものがあるのですが、その理念のもとWONKという若手の実力派バンドとThe Love Experimentというニューヨークでまさにブレイクしようとしているバンドにコラボレーションをしていただきました。最初にこの話を聞いた時はどう思われました?

江﨑:僕はThe Love Experimentはそもそも好きなバンドだったし、メンバーの経歴も凄いからそういう人たちと音楽をやれるっていうのが単純に楽しみっていうのが第一でしたね。

井上:それと、僕たちもそもそも同じように世界に向けてスプレッドしたいっていうのがあるんですよ。WONKが世界で知られて欲しい、聴いてもらいたいというのはもちろんあるし、epistrophというレーベルも僕たちで運営していて、このレーベルでは日本と世界のいい音楽を作っているアーティストたちのシーンをつなげて良いムーブメントを起こしていきたいっていう想いも強く持ってやっているんで。だから僕たちからしてもその理念に則ったプロジェクトができたかなと思っていますね。

なるほど、同じ方向を向いて制作に取り組めてよかったです!実はこういった形式で日本と海外のバンドに共作をしてもらうということが今回SSRにとっても初めての試みだったんですが、WONKはこういった形での制作はやったことありました?

江﨑:いや、初めてです。他のバンドと1枚の作品を作るっていうこと自体、日本のバンドともやったことはなかったです。海外のアーティスト作品をリミックスとかはやったことありましたけど、一緒に曲を作るのは初めてですね。

実際やってみてどうでした?

荒田:やっぱりかなり刺激にはなったよね。

江﨑:そうだね。ただ、The Love Experimentはメンバー全員がアメリカにいるわけでもなくて、インターネットが普及して世界とのコミュニケーションはだいぶ楽になったっていうのがあったとしても、国を跨いで一つの作品を一緒に作っていくっていうのはやっぱり難しさもあって……

どんなところが難しかったですか?連絡がとりにくかったり?

江﨑:連絡とかはそれこそインターネットがあるからいつでもどこでもすぐにとれるので、そういう面でのタイムラグとかはないんですけど、感覚的で人間的な部分が強く出る音楽制作においては、リアルで会ったことがない中で向こうではどういうテンション感で制作進めてるんだろうとか、そういうメンタル部分を把握しづらいっていう点で意外と悩むことが多かったです。その反面、ピュアにお互いの音楽だけを意識して制作出来たっていうのは大きな刺激になりました。

今回は両バンド間では敢えてビデオ通話とかもせずに音源とテキストメールだけでのやり取りにしたそうですね。

江﨑:制作進行をやっていただいたSSRの西井さんとも話して、せっかくだから全く顔合わせることなくお互いが音楽だけ見つめて作っていって、これから何かの機会でライブをやる時があったら、その時に初めて会って一緒に音を出すっていうのも非常に音楽的で面白いよねっていうのもあって。今っぽい作り方ですよね。

WONK – Gather Round feat. Matzuda Hiromu

未来見えてきたなって感じですよ。いよいよ距離は全く関係なくなってきた(井上)

だいぶスマートなやり方だなと思うんですが、具体的に曲の割り振りとかの進行はどのようにしていったんですか?

井上:曲の割り振りについては全体の曲数と、WONKとThe Love Experimentで共作する曲数が何曲っていう枠だけはSSRの主導で決まってて、残りは各バンドのみで完結させていくっていう形ですね。要はWONKとThe Love Experiment、そしてWONK × The Love Experimentっていう3つのバンドで制作が進行していくみたいな。

江﨑:それで実際に制作始めてからは共作する楽曲のデータはSpliceっていうサービスを使ってやり取りをしながら進めていきました。

Spliceっていうのは?

江﨑:簡単に言うと音源制作に特化したDropboxというかGithubみたいな感じですね。そこにDAWのデータをアップするとどこに手を加えたかとかのバージョン管理もできるし、コメントもつけておけるっていう。まだちょいちょいバグあって「おいこの前乗せた鍵盤のデータごそっと消えてんぞ…」みたいな事故はありつつ…(笑)

荒田:あれは早く直して欲しいな(笑)

井上:他にも保存したはずのものが保存されてなかったりとかいろいろとあるんで、Spliceだけに保存っていうのはちょっとまだ出来ないよね。ローカルにもバックアップとりつつっていうのはまだ必要な段階ですね。

江﨑:まあでもそれを差し引いても音楽制作のためのファイルの共有サービスとしては圧倒的に便利ですよ。元々The Love Experimentに教えてもらったんですけど、彼らはメンバーがアメリカ国内でも散らばってるしイタリアにいるメンバーもいるしでその距離の解決策として普段から使っているだけあって、今回の制作においても間違いないものでしたね。

井上:無料だし容量制限もないしで未来見えてきたなって感じですよ。いよいよ距離は全く関係なくなってきた。

これは後進のアーティストたちにも知ってもらいたいお話ですね。とはいえ前提としてみんな何かしらのDAWは扱えるってことですよね?みんな共通のものを使ってるんですか?

井上:僕はLogic。

荒田:俺はAbleton Live。

江﨑:僕と長塚さんはLogicもAbleton Liveも触ります。

長塚:程度の差はあるけど一通り音を録ってのせるとこまではみんな出来るって感じですね。

井上:最終的にミックスは全部僕がやるんで荒田が作った曲もLogicを通すことになるんですけど、Ableton Liveはちょっと独特というかAbleton Live内で完結する想定で作られてるんですよね。MIDIにテンポ情報入れられなかったりいろいろと大変な思い出だらけ……(笑)

江﨑:あれ僕もいろいろやってみたんですけど、どんなテンポの曲でも書き出すと全部bpm120で書き出されるという不思議仕様。

井上:その分他のソフトではやること自体が大変な高度なことをAbleton Live内なら簡単に出来ちゃうみたいな機能はあるんだけど、基本的な部分が他のソフトと違うんですよ。

江﨑:でもThe Love Experimentは全員Ableton Liveだし海外の人は結構そっちの方が多い印象かも。

井上:いやぁ…大変だった……(笑)

こんなのあり?って思うような歌い方でもそれが「表現」として正解(長塚)

そんな大変な思いをしつつも(笑)、共作をしていく上で気づいたThe Love Experimentの凄さとか、特徴みたいなものを感じる部分はありました?

江﨑:僕は何よりコードワークの巧妙さ。

荒田:あれほんと凄いよな。誰がやってんだろうね。

井上:ちゃんと勉強してるっていう印象が凄いあるよね。

江﨑:曲を作っていくとどこかで緩みが出るというか、深く掘りきれないような部分が出来ちゃったりするんだけど、彼らの曲には全くそういう部分がなくて。どこ聴いても考え抜かれているなーっていう印象を受けるんですよね。チャールズは弦楽器についてもきちんと学んでいるらしくて、クラシック的な和声も完璧に抑えてるなと感じますね。

井上:あと俺が思うのはキムの歌。凄いクセがあるんだけどそれがめちゃくちゃかっこいい。発声にも抑揚のつけ方にも特徴があって、パッと聴いて面白いなあと感じますね。

長塚:うん、あれはカッコいいよね。聴いててなるほど、こんな歌い方もあるんだって気づかせてくれるところもいっぱいありました。

江﨑:てかもう最近ちょっとマネ入ってるよね(笑)

井上:確かに(笑)

長塚:それだけ凄いんだよ(笑) 発音とかも普通に聞いたら英語の発音としてはこんなのあり?って思うような歌い方でもそれがその曲のその部分においては「表現」として正解だったりするんです。フロー重視というか、極めて音楽的な歌い方というか。

The Love Experiment – Everywhere

リリックは曲ごとに長塚さんとキムでそれぞれのパートを書いてるんですか?それとも1曲通してどちらかが書く?

長塚:1曲通して書いてっていう形ですね。できあがったものをお互いに送りあうんですけど、キムは僕が書いたものをしっかり噛み砕いて、彼女が歌うところは彼女の表現に書き直してくれました。そもそも僕が書くと男目線になるのでそこを女目線にしたりっていうのもあるんですけど、それがまたいい表現の仕方になっているんですよね。

なるほど。同じ質問をThe Love Experimentにもしてみたいですね。直接顔合わせしてないとなるとどう思ってるか気になりますよね。

江﨑:そうですねー。かなり気になる。

荒田:まあでもお互いの音源をそれぞれリミックスしたものがある程度お互いのイメージを凝縮したものになってるとは思うんですけどね。

江﨑:いい感じに仕上がってるよね。

井上:なんなら一番いい感じかもしれない。いやあ、これ話し始めるとどんどん気になってきたな。どう思ってんだろ(笑)

荒田:うん、俺らのリミックスどう思ったかすげー気になる。

じゃあ同じ質問ぶつけてみますので返事きたら連絡します!

音楽もいい感じだったし、よくよく彼らのことを調べてみたら聴いてきた音楽とか背景とかが似ていた(江﨑)

元々The Love Experimentを知ったきっかけはなんだったんですか?

江﨑:元々The Love Experimentを知ったきっかけはなんだったんですか?

荒田:偶然の出会いだったよね。

江﨑:その後、タワレコさんからWONKの関連アーティストの作品を『Sphere』と一緒に展開したいっていう話があって、そこで『The Love Experiment』を置いてくださいってお願いをしたんです。音楽もいい感じだったし、よくよく彼らのことを調べてみたら聞いてきた音楽とか背景とかが似ていたのもあって。そしたらたまたまSSRのスタッフさんがその展開を見つけてくださって今回のコラボにつながっていくっていう偶然がいくつか重なった感じですね。

確かに音的にも新しいものに挑戦していたり、経歴も似ているかもしれませんね。音楽の世界、とりわけこういったジャンルの界隈ではしっかりと考えを巡らせる「インテリ」的なアーティストも多いですよね。頭の回転が早くて論理的な思考をする方といいますか。

井上:直接それが音楽を作る上で必要ではないと思うんですけど、新しいものを探求したり、音楽理論を噛み砕いて理解してから表現をしたりといったプロセスが、ある種の学問的な側面もあるので結果的にそういう相関が生まれてるのかもしれませんね。

江﨑:あと日本のアーティストに関してはアルファベットへの抵抗の少なさっていうのもある程度は大切だと思っていて、そういうところは勉強慣れしている人はスムーズかもしれないですね。新しいツールや一次情報を仕入れたりする時とか。まあこれは自動翻訳の精度があがる方が早いかもだけど(笑)

井上:その点では俺と荒田は読むとか聞くとかはある程度出来るけど喋れはしないけどね。あやたけとケントは日常会話いけるけど高度な話を英語で出来るわけでもないし。

そういう意味では海外とのコラボにおいてやっぱりまだ言葉の壁は感じました?

井上:うーん、まあ英語読めればかなりの部分はメールで伝達できるし、あとはお互い音のやり取りなんでそこまで大きな壁ではないのかもしれないです。ただやっぱり細かいニュアンスとかを伝えるには直接話せた方が確実ではあるし、音楽にも造詣が深くて英語も話せるような仲介者がいてくれると助かるのは確かかなと思います。

epistrophクルーと海外のイケてるクルーが交流し合って何かプロジェクトができれば(井上)

今後のWONKはどういう動きをとろうとしているんでしょうか?

江﨑:まずはアメリカ行きたい。

井上:まだ企画段階なんですけどいろいろと考えてはいます。やっぱり日本での活動が軸にはなるんですけど、今年中にいろいろ仕込んで来年以降にはアメリカやヨーロッパだけでなく、アジア圏にも積極的に行きたいなとは思っていて。

江﨑:実はYouTubeの再生回数とか見ると東京、大阪の次によく見られてるのが台湾だったりするんですよ。ポテンシャルは凄くあるなというのは感じていて。それにカマシ・ワシントンがこの前WONKの新譜買ってたよってツイートがあったりして、海外にも浸透させていきたいモチベーションめっちゃあがってます。ただ音源を出すって日本だとCDですけど海外だともう配信がメインだし、それだったらいつでも誰でも聴ける状態になってるじゃないですか。何を以って海外進出とするかっていうのも曖昧にはなってきてるんですよね。

井上:だからどっちかというとエージェンシーと契約して海外でもしっかりライブやってみたいなことがやってみたいよね。

江﨑:そうだね。最近KNOWERのマネージャーから連絡がきて「アメリカとヨーロッパのジャズ系のエージェンシーに連絡しとくよ」って言ってもらったりして。東京ジャズでも海外のフェスの実行委員の方がWONKよかったってツイートしてくれてたり、海外でもライブが出来る環境は整いつつあるかなという感触がまだ少しですけどあります。

長塚:欧米でいくらかノウハウ溜めたらい中国とか東南アジアとか台湾とかも同じように進出していきたいよね。

Snarky Puppy feat. Knower & Jeff Coffin – “I Remember” (Family Dinner – Volume Two)

10月末にはThelonius Monkのトリビュート盤をWONKプロデュースでepistrophとBLUE NOTEと共同で出して、11月にはThe Love Experimentとの共作をリリースして、年明けからは海外ツアーをしたいという流れにも一貫した意志を感じます。バンドとしてだけでなくレーベルも運営しているとのことでしたが、レーベル所属アーティストたちもゆくゆくは海外へという意識なのでしょうか?

荒田:アーティストそれぞれをどうしたいというのももちろんあるんですけど、僕たちはレーベルまるごとクルーとしてみんなで世界に行きたいっていうのがありますね。

井上:epistrophクルーと海外のイケてるクルーが交流し合って何かプロジェクトができればいいなっていう。epistroph × Brainfeederとか。日本では僕らが彼らを招いてイベントやって、向こう行ったら彼らがコーディネートしてくれるみたいなそういう交流ができるようになりたいです。

荒田:俺はLow End Theory行きたいな。日本のビートメイカー引き連れて。

井上:俺もカメラマンでついて行っていい?iPhone X買っとくから。

江﨑:じゃあiPhone X買ったやつだけついていけるようにしよう(笑)

他に今WONKメンバーが注目しているのはどういう人たちですか?

荒田:Jakarta Records全般。ここはめっちゃいい。ジャケも綺麗なもの多いし。

江﨑:GO GO PENGUINとかがいたGONDWANA Recordsとか、Snarky PuppyのGroundUP Musicとかも独自の動きしてて面白い。あとは老舗だけどStones Throwは今もとてもかっこいい。

荒田:あとドイツのトラックメイカーのSAFF DUDDYとかもいいよ。

井上:そういう海外のイケてるインディペンデントなアーティストとかレーベルとかと絡んでいきたいですね。

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